無料低額宿泊所という施設をご存じだろうか。ホームレスなど住むところがない人たちに、無料または低額で部屋と食事を提供する施設だ。
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しかし入居者の生活保護費から利用料を天引きしたり、施設職員による暴力などが社会問題にもなっている。なかなか見えにくい“壁の中の問題”について、NPO法人「ほっとポット」の藤田孝典代表理事が実態を語った。
※本記事は日弁連シンポジウム「貧困ビジネス被害を考える?被害現場からの連続報告」(4月12日開催)で、藤田氏が語ったことをまとめたものです。
●無料低額宿泊所が増える要因
無料低額宿泊所に対する相談は年々、増えている。相談内容としては「通帳を勝手に管理されている」「施設管理者からの暴言?暴力がある」「部屋が狭くて息苦しい」といったものが目立っている。施設を利用しているのはホームレスの人や退院後で住むところがない人が多い。
埼玉県のとある無料低額宿泊所を外から見ると、ごく普通のビルにしか見えない。しかし窓をよく見てみると、間仕切りがあるのが分かる。つまり部屋を3つに区切って、そこで生活をしているのだ。6帖の部屋を3つに分けたり、4.5帖の部屋を2つに区切っているケースが目立っている。なので2帖?2帖半の部屋で暮らしている人が多い。このほか倉庫の一部を住居として貸しているところもあるなど、劣悪な住環境のところが増えている。そして入居者の生活保護費から利用料を天引きしたりしているのだ。
なぜこうした無料低額宿泊所に住まなければいけないのだろうか。社会的な背景として、住むところがない人が増えていることが大きい。一方で普通の家を借りることができれば、こうした問題は起きないのだが、ホームレスや保証人がいない人たちは一般人の住宅市場から排除されている。貧困と同時に社会的に排除されている、といってもいいだろう。
無料低額宿泊所が増えている要因として、施設開設のハードルが低いことも挙げられる。例えば空きビルを買い上げれば、簡単に運営ができる。そして施設に「住めますか?」と頼むと、すぐに泊めてくれるところが多い。行政側からすれば、そうした施設が存在していると、負担がとても少ない。なので無料低額宿泊所に依存している福祉事務所が、数多く存在しているのだ。
また行政は、低所得者から住居に関する相談があれば、このような点を見ている。「この人はアパートで生活ができるのか」「金銭をきちんと管理できるのか」「お酒を飲まずにきちんと生活ができるのか」――。しかしその人が“お酒を飲まないと生活ができない”と判断すれば、「あなたはアパートで生活ができませんね。無料低額宿泊所で生活してください」となってしまう。つまり、行政が強制的に無料低額宿泊所に入れている実態があるのだ。
無料低額宿泊所は第二種社会福祉事業に該当するわけだが、第一種社会福祉事業には養護老人ホームであったり、救護施設などがある。本来であればそうした施設がきちんと機能しなければいけないのに、それらの施設に頼れない状況があるので無料低額宿泊所に人が流れ込んでくる。このように見てみると、無料低額宿泊所と行政は利益関係がある仕組みなになっているのだ。
●無料低額宿泊所の問題
無料低額宿泊所ではどのようなことが起きているのだろうか。1つめは入居している人に対し虐待、権利侵害が犯されている。通帳や印鑑を管理されることが多く、身体的な暴力であったり、暴言なども起きている。2つめは入居者の生存権や幸福追求権が侵害されているのではないだろうか。2帖や3帖といった狭い部屋で長期間生活するというのは、人間の生存権を侵害しているといっていいだろう。また一時的な宿泊施設であるということを多くの行政が忘れている。無料低額宿泊所に5年以上も住んでいる人がいるが、そこから「転居しましょう」という提示はほとんどない状況だ。
無料低額宿泊所で問題が発生する理由
(1)十分な説明がないまま施設サービスを利用する人々の存在
(2)一時的な宿泊所であるにもかかわらず、長期化する入所期間
(3)多様な疾病や障害を有する入所者に対応できない職員配置
(4)未整備な苦情対応窓口
(5)社会福祉法による位置づけがあいまいで、罰則規定が貧弱
(6)第一種社会福祉事業の機能不全
それでは無料低額宿泊所の問題をどのように解決していけばいいのだろうか。実は無料低額宿泊所に頼らなければいけない地域が存在していることも事実。確かに施設に入るのはとても簡単だが、それだけで貧困の問題が解決するわけではない。まずは行政が、無料低額宿泊所以外の選択肢を提示しなければいけないだろう。そして不動産市場がきちんと機能していれば、こうした施設を利用しなくても済む。良い不動産業者と連携を図りながら、無料低額宿泊所に代わるものを作っていかなければいけないだろう。
社会福祉というのは、“縦割福祉”とも呼ばれている。例えば高齢者が利用できるのはこの施設、障害者はこの施設、などと決められている。しかし無料低額宿泊所は“誰でも受け入れている”といった状態。既存の社会福祉が対象としてこなかった“選別してきた人たち”を受け入れる、新たな施設が必要なのではないだろうか。
●ケースワーカーが怠慢
無料低額宿泊所を管理している人に「お前はもうここにいなくてもいい」と言われたら、どのようにすればいいのだろうか。また施設の規則に反することをすれば、入居者は再びホームレスの世界に戻らなくてはいけないかもしれない。なので施設の管理者に、なかなか苦情がいえない実態がある。
また無料低額宿泊所を利用している人の多くは、生活保護を受けている。ということは施設に宿泊している人たちにケースワーカーがかかわっているはずだが、彼らから施設の問題点などを聞くことは少ない。これはケースワーカーの怠慢といってもいいだろう。ケースワーカーは無料低額宿泊所の改善指導と転居指導をきちんと行うべきだと思う。
悪い無料低額宿泊所がある一方で、一部で良い施設もある。今後は良い施設を拡大していくことが必要なのではないだろうか。良い施設には補助金を出したり、財政面での支援を考えてもいいかもしれない。一方で悪い施設には重い罰則を与えることで、社会から淘汰していくことも必要だろう。【土肥義則】
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